年末調整の電子化|税務署への申請は不要。実務のネックは控除証明書側にある

経理自動化

年末調整の電子化を検討しているなら、準備を始めるのは今からがちょうどいい時期です。11月に入ってから動き出すと、初年度は間に合いません。

私は総務部長として毎年の年末調整を統括していますが、電子化してみて「本当に楽になった部分」と「思ったほど進まない部分」が、はっきり分かれました。本記事では、実務目線で電子化の全体像と、つまずきやすいポイントをお伝えします。

※本記事は2026年8月時点の情報です。年末調整の様式や控除の内容は毎年改正されるため、実際の対応時には最新情報をご確認ください。

年末調整の電子化とは何をすることか

年末調整の電子化とは、これまで紙でやり取りしていた申告書と控除証明書を、データでやり取りする仕組みです。流れは次のようになります。

  1. 従業員が保険会社等から、またはマイナポータル連携で控除証明書を電子データで取得する
  2. 従業員が年調ソフト等に基本情報を入力し、取得したデータを取り込む。控除額は自動計算される
  3. 従業員が作成した申告書データを勤務先にデータで提出する
  4. 会社が給与システムに取り込んで年税額を計算する

ポイントは、控除額の計算と検算が不要になることです。紙の場合は従業員が手計算した金額を経理側で検算していましたが、電子化するとソフトが計算するため、この工程は大幅に減ります。

国税庁の「年調ソフト」は無償

従業員が申告書データを作るためのソフトは、国税庁が年調ソフトとして無償で提供しています。パソコン版のほか、スマートフォンのアプリ版もあります。給与システム側が独自の入力画面を用意している場合はそちらを使う形になるので、自社の環境に合わせて選んでください。

税務署への申請は「不要」になっている

ここは誤解が残りやすいところなので、はっきり書いておきます。

かつては、従業員から申告書をデータで受け取るために「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を税務署に提出し、承認を受ける必要がありました。しかし令和3年(2021年)4月1日以降にデータで受領する場合、この申請は不要です。

解説記事のなかには「税務署への承認申請が必要」と書かれたまま更新されていないものもあるので、注意してください。国税庁の年末調整手続の電子化に関するページで最新の内容を確認できます。

ただし、申請が不要になっただけで、会社側に求められる措置がなくなったわけではありません。データの提供を受けるために必要な措置と、提供した人が本人であることを明らかにする措置は引き続き必要です。要するに、なりすましや改ざんを防げる仕組みで受け取ってください、ということです。給与システム経由で受け取る形にしておけば、通常はこの点も満たせますが、自社のシステムが要件に対応しているかは提供事業者に確認しておくと安心です。

なお、従業員から事前に同意を得る必要もありません(給与明細や源泉徴収票をデータで交付する場合は事前の承諾が必要なので、こちらと混同しないよう注意してください)。

【経験者の本音】電子化して本当に楽になったこと

実際に電子化してみて、効果を実感したのは次の4点です。どれも地味ですが、担当者の負担としては大きい部分でした。

1. 紙の回収・保管が大きく減った

申告書を配って、回収して、ファイリングして、保管する。データで受け取れた分だけ、この一連の作業が減ります。人数が多い会社ほど効きます。書類を探す手間もなくなるので、後から確認が必要になったときも楽です。ペーパーレス化全般については経理の電子化・ペーパーレス化の進め方もあわせてご覧ください。

2. 計算ミス・記入ミスが減った

紙のときは、記入漏れや計算間違いを見つけては本人に差し戻す、というやり取りが必ず発生していました。電子化するとソフト側で必須項目のチェックと控除額の計算をしてくれるため、この往復が大きく減ります。

3. 控除証明書のデータ連携

控除証明書のデータをそのまま取り込めるので、金額の転記が不要になります。転記がなくなる分、転記ミスのリスクも大きく下がります。

4. 回収状況の進捗管理

意外と効果が大きいのがこれです。誰が提出済みで誰が未提出か、システム上で一目でわかります。紙のときは机の上の束を数えて確認していましたが、その必要がなくなりました。未提出者への催促も、対象がはっきりしている分だけ楽になります。

【経験者の本音】最大のネックは控除証明書側にある

一方で、正直に言うと期待どおりに進まない部分もあります。実務で一番のネックだと感じているのは、控除証明書の電子化が発行元によってばらつくことです。

会社側がどれだけ電子化の準備を整えても、従業員が保険会社等から電子データを取得できなければ、そこは紙のままです。国税庁も電子で控除証明書を発行している事業者の一覧を公表していますが、裏を返せばすべての発行元が対応しているわけではないということです。

加えて、契約者が従業員本人ではないケース(家族名義の契約など)では、マイナポータル経由での取得が難しいこともあります。

つまり、初年度から完全ペーパーレスにはなりません。紙と電子が混在する前提で運用を設計しておくことをおすすめします。「全部データで出してください」と案内すると、対応できない従業員が困って問い合わせが増えます。「データで取得できる方はデータで、難しい方は従来どおり紙で」という案内にしておく方が、現場は回ります。

この「仕組みを入れることと、運用が定着することは別物」という感覚は、経理の自動化全般に共通します。詳しくはAIを使った経理業務効率化の具体的な手順でも解説しています。

従業員からよく来る質問への備え

電子化しても、従業員からの問い合わせがゼロになるわけではありません。毎年必ず来る質問は決まっているので、あらかじめ案内文に入れておくと問い合わせが減ります。

質問1:控除証明書をなくした/まだ届かない

毎年一番多い質問です。書面の控除証明書を紛失した場合は、保険会社等に再発行を依頼してもらうことになります。電子データで取得できる契約であれば、再発行を待たずに本人が取得できる場合もあるので、まずその案内をすると早く解決します。

「まだ届かない」という問い合わせも多いですが、証明書の発送時期は保険会社によって異なります。締切に間に合わない場合の対応(後日提出を認めるか等)は、社内ルールを決めて先に案内しておくと混乱しません。

質問2:扶養の記入方法がわからない

もう一つ多いのが扶養まわりです。配偶者や親を扶養に入れられるのか、収入がいくらまでなら該当するのか——ここは毎年質問が集中します。

扶養に関する控除は改正が入りやすい分野でもあるので、その年の要件を確認したうえで案内してください。判断に迷うケースは経理・総務だけで結論を出さず、顧問税理士に確認することをおすすめします。

準備のスケジュール

実務の感覚として、配布・回収そのものは11月に入ってからで問題ありません。ただし電子化の初年度だけは、その前の準備が必要です。

時期やること
8〜9月給与システムの対応状況を確認し、電子化の方針を決める
10月従業員への案内文を準備。控除証明書の電子取得方法を周知する
11月申告書の配布・回収を実施
12月年税額の計算・給与への反映

ポイントは10月の周知です。控除証明書を電子データで取得するには従業員側の準備(保険会社サイトでの手続きやマイナポータルの設定)が必要なので、証明書が届く時期の前に案内しておかないと間に合いません。

あわせて読みたい

給与・電子化まわりの実務については、次の記事でも解説しています。

まとめ

年末調整の電子化について、実務目線で整理します。

  • 税務署への承認申請は令和3年4月以降不要。ただしなりすまし・改ざんを防ぐ措置は必要
  • 楽になるのは「紙の回収・保管」「証明書の転記」「回収の進捗管理」。あわせて計算・記入のミスも減る
  • 最大のネックは控除証明書の電子化が発行元によってばらつくこと。初年度から完全ペーパーレスは目指さない
  • 紙と電子の混在を前提に運用を設計する
  • 配布・回収は11月からでよいが、初年度は10月までに従業員への周知を済ませる

完全な電子化を目標にすると「紙が残った=失敗」と感じてしまいますが、そうではありません。自社で完結できる部分から電子化するだけでも、担当者の負担は確実に減ります。まずは給与システムの対応状況を確認するところから始めてみてください。

なお、控除の適用可否など個別の税務判断については、最終的に顧問税理士に確認することをおすすめします。

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