出張旅費や日当の扱いは、経理の現場で判断に迷いやすい分野です。「日当はいくらまでなら非課税か」「旅費規程は作らないといけないのか」——こうした疑問に、実務目線でお答えします。
先に結論から書くと、日当の非課税に「1日いくらまで」という法令上の金額基準はありません。ネット上には具体的な金額が並んでいますが、それらは相場や目安であって、法律で決まった基準ではないという点をまず押さえてください。
※本記事は2026年8月時点の情報です。税制改正で取り扱いが変わる可能性があるため、実際の判断時には最新情報をご確認ください。
出張旅費・日当が非課税になる根拠と基準
出張旅費や日当が非課税とされる根拠は、所得税法9条1項4号です。勤務地を離れて職務のために旅行した場合に、その旅行に通常必要と認められる範囲で支給される金品は非課税とされています。
では「通常必要と認められる範囲」とは何か。所得税基本通達9-3が判定の考え方を示しており、次の2点から判断するとされています。
- 支給額が、役員および使用人のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されているか
- 支給額が、同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるか
つまり判断はすべて「社会通念上、相当かどうか」という相対的なものです。金額の上限を数字で定めた規定はありません。この範囲を超える部分は、給与などとして課税されることになります。詳しくは国税庁の出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱いで確認できます。
旅費規程は「必須」ではないが、あった方がいい
ここも誤解が多いところです。「旅費規程がないと日当を非課税で出せない」と書かれた記事を見かけますが、正確ではありません。
法令上、非課税の要件は「通常必要と認められる範囲かどうか」であって、規程の有無そのものが課税・非課税を分けるわけではありません。実際、後述するインボイスの出張旅費等特例に関する国税庁の資料でも、社内規程や基準の有無にかかわらず特例の対象になると明記されています。
ではなぜ規程を作るのか。理由は「相当な金額であることを説明できるようにするため」です。税務調査で日当の妥当性を問われたとき、規程があれば「この基準に沿って全社員に統一的に支給しています」と客観的に示せます。規程がなく、支給額の根拠を口頭でしか説明できない状態は、立証の面で不利になります。
要するに、規程は法令上の要件ではなく、相当性を裏づける実務上の手段です。この違いを理解しておくと、規程を作る目的がぶれません。
【経験者の本音】規程があると精算が明らかに楽になる
税務上の話とは別に、実務担当者として旅費規程をすすめる理由があります。精算作業が単純に楽になるからです。
日当の金額が規程で決まっていれば、経理側は「出張した事実」を確認するだけで済みます。食事代の領収書を1枚ずつ確認して、これは経費か個人負担かと判断する作業が不要になります。この差は、出張が多い会社ほど効いてきます。
ただ、実際には旅費規程がない会社は意外と多いのも事実です。日当を出しておらず実費精算だけ、という会社も珍しくありません。それ自体が悪いわけではありませんが、出張が一定量ある会社なら、規程を整えた方が経理も現場も楽になります。
出張精算でよくあるもめごと2つ
1. 規程の上限を超えた実費請求
実務で一番多いのがこれです。宿泊費の上限が規程で決まっているのに、「その日はどこも満室で、この価格しか取れなかった」と上限を超えた金額で請求が上がってきます。
気持ちは分かりますが、都度認めていると規程が形骸化します。かといって一律に却下すると現場が納得しません。おすすめは、例外を認める条件と手続きをあらかじめ規程に書いておくことです。「やむを得ない事情がある場合は上長の承認を得て実費精算とする」といった一文があるだけで、判断が属人的になりません。規程を作るときは、上限額だけでなく例外処理まで決めておくと後で揉めません。
2. 精算が遅い・そもそも出てこない
もう一つが精算の遅れです。出張から戻っても精算書が出てきません。仮払金を渡している場合、精算されないまま残高が残り続けることになります。
仮払金の残高を放置すると、税務調査で中身を問われたり、役員への仮払いなら貸付金と見なされたりするリスクがあります(詳しくは立替金・仮払金・預り金・貸付金の違いで解説しています)。対策としては、精算期限をルール化して月次で残高を洗い出し、未精算者に催促することです。地道ですが、これが一番効きます。
消費税とインボイスの扱い
出張旅費まわりは消費税の扱いも押さえておきたいところです。ここは混同されやすい制度が複数あるので、整理しておきます。
国内出張は課税仕入れ、海外出張は対象外
国内出張の旅費・宿泊費・日当は、通常必要と認められる部分について課税仕入れになります。日当も対象です。
一方で見落とされやすいのが海外出張です。海外出張の旅費・宿泊費・日当は、原則として課税仕入れになりません。国内で行う取引ではないためです。国内と同じ感覚で処理していると誤りますので、注意してください。
出張旅費等特例には金額の上限がない
インボイス制度では、原則として適格請求書の保存が仕入税額控除の要件ですが、出張旅費については特例があります。
出張旅費等特例は、従業員に支給する出張旅費・宿泊費・日当のうち、その旅行に通常必要と認められる部分について、帳簿のみの保存で仕入税額控除ができるという特例です。ポイントは次の3点です。
- 金額の上限はありません。新幹線代や宿泊費が3万円を超えていても、通常必要な範囲であれば対象です
- 社内規程や基準の有無にかかわらず対象になります
- 概算払いでも実費精算でも対象です
「通常必要と認められる部分」の判定は、先ほどの所得税基本通達9-3の考え方によることとされています。つまり所得税で非課税になる範囲と、消費税で帳簿だけで控除できる範囲が連動しているという構造です。詳しい要件は国税庁の質疑応答事例で確認できます。
3つの特例を混同しない
帳簿のみの保存で控除できる特例は複数あり、解説記事でも混同されていることがあります。整理すると次のとおりです。
| 特例 | 金額基準 | 期限 |
|---|---|---|
| 出張旅費等特例 | 上限なし(通常必要な範囲) | 期限の定めは確認されていない |
| 公共交通機関特例 | 1回の取引が3万円未満 | 同上 |
| 少額特例 | 1回の取引が税込1万円未満 | 2029年9月30日まで |
特に注意したいのが少額特例は期限つきだという点です。2029年(令和11年)9月30日までの課税仕入れが対象で、期限を過ぎれば課税期間の途中でも適用できなくなります。また少額特例には対象事業者の要件(基準期間の課税売上高1億円以下など)もあるので、自社が該当するか国税庁の資料で確認しておいてください。
「3万円未満」という数字だけが独り歩きしがちですが、それは公共交通機関特例の基準であって、出張旅費等特例には上限がありません。インボイス制度全体の整理はインボイス制度とは?やるべき対応まとめもあわせてご覧ください。
日当の金額はどう決めるか
法令上の金額基準がない以上、いくらに設定するかは各社の判断になります。判断材料としては次のような考え方があります。
- 同業種・同規模の他社の水準と比べて極端に高くないか
- 役員と従業員で差をつける場合、その差が説明できる範囲におさまっているか
- 全社員に統一的な基準で運用されているか
特に気をつけたいのが役員の日当です。役員だけ突出して高額な設定にすると、相当な範囲を超える部分が給与(役員給与)として扱われるリスクがあります。役員給与は損金算入の要件も絡むため、影響が大きくなりがちです。
金額の設定は税務リスクに直結する部分なので、規程を作る際や金額を見直す際は、顧問税理士に確認することを強くおすすめします。「他社はいくらだから大丈夫」と自己判断するより、自社の状況を知っている専門家に見てもらう方が確実です。
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経費精算まわりの実務については、次の記事でも解説しています。
まとめ
出張旅費・日当・旅費規程について整理します。
- 日当の非課税に法令上の金額基準はない。「通常必要と認められる範囲」=社会通念上相当かで判断する
- 旅費規程は法令上の必須要件ではないが、金額の相当性を説明する手段として有効。精算実務も楽になる
- 規程を作るときは上限額だけでなく例外処理の手続きまで決めておく
- 海外出張は原則として課税仕入れにならない
- 出張旅費等特例に金額の上限はない。3万円未満は公共交通機関特例、1万円未満の少額特例は2029年9月末まで
この分野は「いくらまでならセーフ」という明確な線がないぶん、規程を整えて統一的に運用することが実務上の備えになります。金額設定や個別の判断については、最終的に顧問税理士に確認することをおすすめします。

