「社員との飲食や慰安旅行の費用は、福利厚生費?それとも交際費?」——この判断を間違えている会社は意外と多いです。福利厚生費のつもりで処理していたものが、税務調査で交際費や給与と認定されると、思わぬ税負担が発生することがあります。
本記事では、経理実務経験者の視点から、福利厚生費と交際費の違いと、現場でよくある間違い・判断のポイントを具体的に解説します。
福利厚生費と交際費の基本的な違い
まず両者の違いを整理します。
福利厚生費:従業員全体の慰安・健康・福利のために、会社が平等に支出する費用。原則として全額が経費(損金)になります。
交際費:取引先など事業関係者への接待・贈答などの費用。法人では損金算入に制限があります。
| 項目 | 福利厚生費 | 交際費 |
|---|---|---|
| 対象 | 従業員全体 | 取引先・事業関係者 |
| 目的 | 従業員の慰安・福利 | 接待・贈答 |
| 損金算入 | 原則全額 | 制限あり |
福利厚生費として認められるための条件
私が実務で福利厚生費かどうかを判断するときに重視しているのは、次の2つの条件です。
条件1:機会の平等性(全員が参加できること)
福利厚生費は、全社員、あるいは部門全員など、対象者が平等に参加できる機会であることが前提です。特定の人だけを対象にした支出は、福利厚生費として認められにくく、交際費や給与とみなされる可能性があります。
条件2:金額が社会通念上、常識的な範囲であること
もう一つが金額の妥当性です。一人あたりの金額が常識的な範囲を超えて高額になると、福利厚生費として認められにくくなります。「会社が従業員の福利のために負担する金額として妥当か」が判断の軸になります。
福利厚生費になる主な費目と、認められる条件
福利厚生費には「これが福利厚生費です」という決まった一覧があるわけではなく、費目ごとに認められる条件が違います。実務で登場する頻度が高いものを整理しました。
| 費目 | 福利厚生費として認められる主な条件 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 健康診断・人間ドック | 全従業員が対象で、会社が医療機関へ直接支払っていること。金額が常識的な範囲であること | 役員や特定の役職だけ高額なコースにすると、その差額が給与とみなされる可能性がある |
| 食事補助・弁当代 | 従業員が食事代の半分以上を負担し、かつ会社の負担額が1か月あたり7,500円以下(消費税を除く)であること | 現金で渡すと全額が給与になる。会社が全額負担している場合も要件を外れる |
| 社員旅行・レクリエーション | 旅行期間が4泊5日以内(海外は現地滞在が4泊5日以内)で、参加人数が全体の50%以上であること | 不参加者に金銭を支給すると、参加者を含む全員に給与の支給があったものとされる |
| 忘年会・新年会 | 全従業員に参加機会があり、金額が常識的な範囲であること | 役員だけの会食や、取引先が同席する会は交際費になる |
| 慶弔費・見舞金 | 社内規程に基づき、社会通念上相当な金額であること | 取引先への慶弔費は交際費。領収書が出ないため証憑の残し方が課題になる |
| 社宅・寮 | 従業員から賃貸料相当額を受け取っていること | 賃貸料相当額には定められた計算方法があり、無償や著しく低い家賃だと差額が給与になる |
なお通勤手当は、福利厚生費ではなく通勤費や旅費交通費として処理するのが一般的です。非課税限度額が別途定められている点でも、上の費目とは扱いが異なります。
食事補助の「1か月7,500円以下」は、2026年(令和8年)4月1日以後に支給する食事から適用される金額です。それ以前は3,500円以下でした。42年ぶりの引き上げで、実務ではまだ旧基準のまま運用している会社もあります。詳しくは後述します。
あわせて注意したいのが、社員旅行の「4泊5日以内・参加50%以上」は、満たせば必ず非課税になるという確定要件ではないという点です。これは国税庁が示す原則的な要件であり、実際に課税されるかどうかは旅行の内容を総合勘案して判定されます。後述するとおり金額には明確な基準がありませんが、期間や参加率についても、最後は総合的な判断だと考えておくほうが安全です。
代表的な仕訳例
区分の考え方は、仕訳の形で見ると一気に具体的になります。同じ「飲食」でも、誰が参加するかで借方の科目が変わることに注目してください。
| 取引 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 全社員対象の健康診断費用30,000円を普通預金から支払った | 福利厚生費 30,000 | 普通預金 30,000 |
| 参加率50%以上の社員旅行の費用400,000円を普通預金から支払った | 福利厚生費 400,000 | 普通預金 400,000 |
| 旅行に参加しなかった社員に30,000円を現金で支給した | 給与手当 30,000 | 現金 30,000 |
| 全社員が参加できる忘年会の費用150,000円を普通預金から支払った | 福利厚生費 150,000 | 普通預金 150,000 |
| 役員だけの会食80,000円を普通預金から支払った | 交際費 80,000 | 普通預金 80,000 |
| 社内規程に基づき、従業員へ結婚祝金30,000円を現金で支給した | 福利厚生費 30,000 | 現金 30,000 |
| 取引先の葬儀に香典10,000円を現金で包んだ | 交際費 10,000 | 現金 10,000 |
| 弁当代100,000円を未払計上し、うち本人負担50,000円を給与から控除することにした | 福利厚生費 50,000 立替金 50,000 | 未払金 100,000 |
補足を2つ。3行目のように給与手当で処理する場合は、源泉徴収の対象になります。仕訳を切って終わりではなく、給与計算側との連携が必要です。最終行の本人負担分は、立替金や預り金で受けておき、給与支給時に相殺します。
間違えるとどうなるのか
交際費に該当するものを福利厚生費として処理していると、税務調査で次のような指摘を受けるリスクがあります。
- 交際費と認定される:法人の交際費は損金算入に制限があるため、損金不算入額が発生し、税負担が増える可能性があります。
- 給与として扱われる:特定の従業員への利益供与とみなされると、給与扱いになり、源泉所得税の問題が生じる可能性があります。
「全額経費にできるつもりが、一部しか認められなかった」「思わぬ課税が発生した」という事態を避けるためにも、最初の区分が重要です。
「給与」と判定されるのはどんなときか
結論から言うと、福利厚生費で本当に怖いのは交際費認定より給与認定です。交際費なら損金不算入という法人税の話で収まりますが、給与と判定されると源泉所得税の徴収漏れになります。会社が遡って納付することになり、しかも本人からは事実上回収しづらい。金額以上に後処理が重いのはこちらです。
給与と判定されるパターンは、大きく3つに整理できます。
パターン1:特定の人だけが対象になっている
最も多いパターンです。役員だけ、あるいは一部の従業員だけが受けられる支出は、その人への利益供与とみなされます。制度としては全社員向けでも、運用上その人しか使っていない状態が続いていれば、実態で見られると考えておいたほうがいい。「規程はあるか」ではなく「実際に全員が使える状態か」が問われます。
パターン2:現物ではなく現金で渡している
福利厚生は現物支給が基本です。食事補助を現金や手当の形で渡すと、補助額の全額が給与として課税されます。会社が弁当を用意すれば要件を満たすのに、「各自で買ってきて」と現金を渡した瞬間に給与になる。ここは経理の理屈というより制度の作りなので、運用を変えるしかありません。
例外として、深夜勤務者に夜食を現物支給できない場合の金銭支給には、1回あたりの非課税枠が設けられています。ただしこれはあくまで深夜勤務者向けの例外で、通常の食事補助には使えません。
パターン3:「代わりに現金を」で全員が給与になるケース
これを知らない担当者が本当に多いので、単独で挙げておきます。社員旅行に自己都合で参加しなかった人へ金銭を支給すると、不参加者だけでなく参加者も含めた全員に、その金額相当の給与の支給があったものとされます。
「不参加者が不公平だから」という善意の配慮が、旅行そのものを丸ごと給与課税に変えてしまう。感覚的にはいちばん納得しづらいところですが、公平性を金銭で埋めようとした時点で福利厚生ではなくなる、と理解しています。不参加者への配慮は、金銭以外の方法で考えるべきです。
なお、給与と判定された場合は給与計算側の修正も必要になります。経理だけで完結しない話なので、判断に迷った時点で顧問税理士に確認してください。
迷いやすいケースと判断のポイント
社員旅行・慰安旅行
社員旅行を福利厚生費にするには、参加者を制限していないことが大切です。たとえば全社向けのメールなどで広く周知し、参加者を募っているか——この「全員に参加機会があるか」が一つの判断材料になります。一部の人だけを対象にした旅行は、福利厚生費として認められにくくなります。
あわせて、一人あたりの金額にも注意が必要です。旅行の期間や会社負担額が常識的な範囲かどうかも見られます。なお、旅行期間と参加割合の要件は前述のとおりです。自社のケースが要件を満たすかどうかは、実施してからでは修正できません。企画の段階で顧問税理士に確認しておくことをおすすめします。
忘年会・新年会
全従業員が参加できる忘年会・新年会は、金額が常識的な範囲であれば福利厚生費になります。一方で、一部の役員だけ、あるいは取引先を招いた会食は、福利厚生費ではなく交際費になります。「誰が参加する会か」で区分が変わります。
慶弔費
従業員への結婚祝い・出産祝い・香典などは、社内規程に基づき、常識的な金額であれば福利厚生費になります。一方、取引先への慶弔費は交際費です。
【経験者の本音】福利厚生費でヒヤッとした3つの場面
ここからは、私が実務で実際に手が止まった場面を書きます。教科書的な要件よりも、こちらのほうが役に立つはずです。
社員旅行:参加率と一人あたり金額が、同時に引っかかった
一番ヒヤッとしたのは社員旅行です。しかも要件の両方に同時に近づいていました。
まず参加率。募集を全社にかけても、実際の参加表明が伸びない。50%という線は、告知した時点ではなく参加した人数で判定されます。締切間際まで数字が読めず、「このままだと福利厚生費として成立しないかもしれない」という状態で準備を進めることになりました。感覚的には、企画を立てる側が一番気にすべきなのは行き先より参加率です。
もう一つが一人あたりの金額です。ここで厄介なのは、金額には明確な基準がないこと。旅行期間の4泊5日や参加率50%のような数字は示されていますが、金額については「少額な現物給与は強いて課税しない」という趣旨を逸脱しない範囲、という定性的な判断になります。数字で線が引かれていないぶん、自分たちで「これは説明できるか」を判断するしかない。私が数字に強い自負があっても、ここは割り切れませんでした。
結果として学んだのは、社員旅行は実施してから経理が判断する話ではなく、企画段階で経理が入る話だということです。参加率も金額も、動き出してからでは変えられません。
食事補助:会社が全額負担していた(2026年4月に上限が7,500円へ)
これは私が引き継いだ時点で、すでに要件を外していたケースです。福利厚生のつもりで会社が食事代を全額負担していました。
食事補助の非課税には「従業員が半分以上を負担していること」という要件があります。会社が全額出していると、金額の大小に関係なくこの時点で要件を満たしません。良かれと思って手厚くした結果、給与課税に近づくという逆転が起きる。福利厚生費のなかでも、手厚さがそのまま裏目に出る珍しい費目です。
ただ、この論点は2026年4月に状況が変わりました。会社負担額の上限が1か月3,500円以下から7,500円以下へ引き上げられています(消費税を除いた金額で判定します。消費税の扱いも確認しておくと安心です)。1984年以来42年ぶりの見直しで、あわせて深夜勤務者へ夜食の代わりに支給する金銭の非課税枠も1回300円以下から650円以下になりました。
実務的に言うと、ここは要注意です。長く3,500円で運用してきた会社ほど、社内規程も判定シートも旧基準のまま止まっています。枠が広がったこと自体は歓迎すべき話ですが、「半分以上を本人が負担する」という要件は変わっていません。上限だけ見て全額負担に踏み切ると、私が引き継いだときと同じ状態になります。
慶弔費:領収書が出ない支出を、どう残すか
金額は小さいのに、一番悩んだのが慶弔費です。香典や見舞金は、性質上どうやっても領収書が出ません。
細かい作業が得意なほうではないので、正直この手の証憑管理は苦手です。それでも、ここだけは形を決めておかないと後で説明できなくなる。私が落ち着いたのは、次の3点をセットで残す形でした。
- 社内規程:誰に、どういう事由で、いくら支給するかを文書で決めておく。支給の根拠がここになる
- 出金伝票:日付・金額・支給先・事由を記載する。領収書の代わりになる社内証憑
- 事実を示す外部の記録:会葬礼状や訃報の通知など、その出来事があったことを示すもの
ポイントは、規程があることです。都度判断で支給していると、同じような事由で金額が違うといった不整合が出ます。そうなると「社会通念上相当な金額か」を説明する軸がなくなる。逆に規程どおりに支給していれば、一件ずつの妥当性ではなく制度として説明できます。慶弔費は、証憑を工夫する前に規程を作るのが先だというのが私の結論です。
あわせて、従業員向けと取引先向けは支給の記録を分けておくことをおすすめします。同じ「香典」でも前者は福利厚生費、後者は交際費です。混ざったまま期末を迎えると、区分し直すのに想像以上の手間がかかります。
支出の前に確認したいチェックポイント
- その支出は「全員(または部門全員)に参加機会があるか」
- 一人あたりの金額は常識的な範囲か
- 参加者を募った記録(社内周知のメールなど)が残っているか
- 取引先が関わっていないか(関わっていれば交際費)
特に「参加者を募った記録」は、税務調査で福利厚生費であることを説明する材料になります。全社員が対象だったことを示せるよう、周知の記録を残しておくことをおすすめします。
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経費区分の判断で迷いやすい他のケースも、あわせてご覧ください。
まとめ
福利厚生費と交際費の区分は、「機会の平等性」と「金額の妥当性」が判断の軸になります。間違えると交際費認定による損金不算入や、給与課税のリスクがあります。
- 全員(部門全員)が参加できる機会か
- 金額は常識的な範囲か
- 取引先が関わっていないか
判断に迷うケースでは、自己判断せず顧問税理士に確認することをおすすめします。日々の区分を正しく行うことが、税務リスクを避ける一番の近道です。

